深呼吸する言葉・負い目がファンファーレを消した

夕暮れ、終の棲家で息を引き取った老媼。 負い目の夜、屍を引き取る息子夫婦。 大往生のファンファーレは消音されたまま、 寂しき缶詰部屋から魂は脱出する。

深呼吸する言葉・冬なのに夏の回想/小学生の散歩

夏の動脈の中を滾るように鳴いていた蝉。 夜風求めれば、賑わうネオンみたいな虫の音。 月光!月光!と蛙がクラクションを鳴らす。 暗黒の天に粉々のガラスが散らばって涼しい。 手を繋ぐ母に安心感の輪郭が見えた。

深呼吸する言葉・新年に

ときめく心が、色づく命が、 2013年を健やかにするのでしょう。皆様にご多幸を!!

深呼吸する言葉・嬉嬉

気持の「き」が、 希望の「き」から剥がれないよう、ジェンカを踊る。 どれだけ跳ねたら「きき」となるのだろう。

深呼吸する言葉・いつか終わる旅ならば

宇宙線にも負けず、隕石にも負けず、 命からがら46億年、宇宙を歩いている。 なのに、みじんこ300年で奇跡の自然が消されて行く。 インベーダーを背負って、バックパッカーの旅は続く。

深呼吸する言葉・水玉風船を放る介護士

ばしゃん!! しぶきを上げる汚い愚痴の水玉風船。 老人の糞尿を浴びるよりも心にシミがつく。

深呼吸する言葉・野性の証明

日本列島の根元でせめぎ合う四つのプレート。 いちばん自由で奔放な地球の野性は、 いつか此処を「失われた列島」と呼ばせるのだろうか。

深呼吸する言葉・草取り

のびる、のびる。ぐちゃぐちゃな気持ちがのびる。 のびる、のびる。さっぱりとした気持がのびる。 わたしは、わたしを掻き分けて、草取りをする。

深呼吸する言葉・地球見聞録

嘘ついたって針千本飲むわけない。 地球は、打ち捨てられた針だらけの惑星。

深呼吸する言葉・潜むハプニング

心の宇宙船。 エイリアンに何処までも 追いかけられているかのような 夜勤の切迫感。

深呼吸する言葉・初夏に根を生やす者

遊び疲れて、まるい丘。 背中ならべて、ゆらゆら。 友だちと、私と、ホタルブクロ。

深呼吸する言葉・風と太陽のシェイカー

てかてか、そよぐ草。 でこぼこ、てっぺんからダンボールで滑空。 ぐるぐる包み込む、風の糸、太陽の糸。 しゃか、しゃか、シェイクされる子どもの歓喜。

深呼吸する言葉・発芽する恋

撒き残した最後のきれいな一粒の種。 まだ見ぬ温かな恋の陽を待ち侘びる。

深呼吸する言葉・着地成功

言葉がタンポポの綿毛になって、 どこに飛んで行くのか、おばあちゃん。 どんなに糞まみれになろうと、 体はきれいなベッドの大地に着地する。

深呼吸する言葉・しみじみと島国

海から顔を出した日本列島は、 なんて繊細なカタチなのだろう。 桜のぬり絵、しみじみと追憶の国。

深呼吸する言葉・転がりながら

光を集めて、風を集めて、 安堵を集めて、恋しさを集めて、 尽きぬ想いを集めて、固めて、 ヒビさえ美しかったりする、 ビー玉みたいな人生。

深呼吸する言葉・消えゆく輝き

遠い日、きらきら火照る心。 輝きは、エンジンを回した後の排気にあった。

深呼吸する言葉・スパーク

繋いだ手の平の中で、幸せの遺伝子が飛び起きた。

深呼吸する言葉・春の調べ

あなたの顔に集まる音符。 刹那、奏でる笑顔に見惚れさせて。

深呼吸する言葉・呼び寄せるもの

デリケートになっている地球。 核なんぞ打ち込まれたら、 怒って、揺すぶり返すかもしれない。

深呼吸する言葉・新生する地球

コンビーフ缶を開けるみたい。 くるくる巻き込まれて行く地殻。 新しい地球の肌が露わになる。

深呼吸する言葉・ジャイアント・ラブ

隕石の凄まじき衝撃。 地球から千切れて45億年。 それでも遠ざからぬ月に人を想う。

深呼吸する言葉・抜歯

歯が抜けた。 心に埋まっていた歯が天に吹き飛ばされた。 凝り固まる私を優しく砕く歯列の一本だった。 その微笑みは、この瞳を覗くたび深く頷いた。 老媼の温もりが欠けた隙間に疼痛の涙が襲う。

深呼吸する言葉・吹き出しに修正マーカー

食べたものを薬で排出する、 老朽した身体のメカニズム。 眼下で捉えるは汚泥の海ばかり。 溜息も揶揄したくなる言葉も白く塗りつぶし、 心が冷たくならぬよう着込むだけ。

深呼吸する言葉・地殻変動

70億人の文明を縫いつけられた地球は、 その重さに耐えかねて、外套を脱ごうとする。

深呼吸する言葉・桜はまだかいな

寒天にかじかむ蕾を見上げては、何度も春をノックしに行く。

深呼吸する言葉・プレートの継ぎ目

赤ちゃんの大泉門の上に原発を造ってしまった日本政府。

深呼吸する言葉・カチカチの言葉

あなたの口からねじり飴がえんえんと伸びて行く。 此の眼も耳もカチカチになって仕舞わぬうちに、 少しだけ春をまぶしてください。

深呼吸する言葉・分福/ぶんぶく地熱発電

じぐるう地球の悶えに振り回されようと、 その熱発する真っ赤な内臓をつかみ取り、ぶんぶく茶釜。 もう、清らかでスチームな電気を食らうしかない私達。

深呼吸する言葉・東北の指輪

宝石を失くした指輪の爪が、くうを掴もうとしかできぬ悲しみ。