深呼吸する言葉・無題

眠る。眠る。 自分の心に近づきたくない時もある。

深呼吸する言葉・稀少の調べ

切り倒された一本の木になってしまったお婆ちゃん。 ある晩、突然、音符を貼りつけた唸り声が溢れ出す。 固く閉じていた枝葉が開く、魂の歌を家族は知らない。

深呼吸する言葉・雨にも風にも負けて

老駭の哀しさに負け、 私のいたらなさにも負け、 人の親を十把一絡げに介護する。 籠の中の鳥は、掬い切れないザルの水。

深呼吸する言葉・極小の愛

果実と見せかけて、じつは茎の変形。 へばりついた極小の粒々こそ、果実そのもの。 偽果を装った、赤い苺みたいな愛もあるね。

深呼吸する言葉・回転寿司

心に浮かんだ言葉を握って皿に並べる。 どんな味になったのか手を伸ばせぬうちに、 時間の高速コンベアーに連れ去られ、 ぐるぐると乾涸びて行く。

深呼吸する言葉・気づかなかった瞬き

命も さえずるを知る 早回し映像の人々。

深呼吸する言葉・幸せは地球の眠りのなか

まどろむ地球の、夢の中のような私達。 あくびをしないで、目覚めないで!!

深呼吸する言葉・節分

鬼も福も、外も内も、混ぜこぜ世界。 目から豆撒きのように、ばらばら涙。

深呼吸する言葉・憩いの記憶

わたしの安堵感は、過去の記憶のなかで暮らしている。

深呼吸する言葉・地球を歩く

言葉をリュックに詰めて山登りする。 解放、快活、静謐の風が胸に当たる。 そうして、地球の触角になって行く。

深呼吸する言葉・再生

この上澄みの思考の油に、現実の長雨。 砕ける。砕ける。衰弱する。 飛び散った油玉は揺れながら、 あきらめきれず、また私にくっ付いて行く。

深呼吸する言葉・思いも寄らぬ落とし穴

薄情な心に着氷すると、割れ落ちて大怪我をする。

深呼吸する言葉・ホーホッケキョ♪

言葉はもう霞。空にのばす指をたどれば、 此の眼は、おばあちゃんの心にとまる鴬。

深呼吸する言葉・涙の変化形

むかし、出口でつっかえて、引き返した大粒の涙。 気がつけば、誰彼無しに貰い泣き、翼をつけた涙。

深呼吸する言葉・湧く沸く感♪

心がわくわく缶を食べたなら、放射熱で溶けだす雪だるま。

深呼吸する言葉・終の棲家

わたしは百円ライターです。 家族が手放した老人の夜を 奇想天外を展開する瞳の奥を カチカチ、カチカチ、ただ灯すのです。 オイルが切れて、心が倒れる人もいます。

深呼吸する言葉・たくさん生きて

ぶあつい百科事典のような想い出。 ページのところどころに挟まった栞。 それは、私を作るヒントになった愛そのもの。

深呼吸する言葉・2012年の雨

澄んだ眼。澄んだ耳。澄んだ言葉。 まっさら、まっさら。 こころに新しい雨が降って来る。

深呼吸する言葉・切り替わる日

クリスマスが終わると、 膨らましていたサンタが一斉にしぼむ。

深呼吸する言葉・ぽつん

マッチ売りの少女のように、侘しく灯る夜であってもいいさ。 きらめく電飾が、思い出の夜を美しく照らしてくれていれば。

深呼吸する言葉・スクレーパーの心理

無駄なことでもやたら身に付けようと過食した若き日。 もはや、あらゆる無駄をこそぎ落としたい減量の日々。

深呼吸する言葉・在るがまま

からだの自由が錆び固まって、 シュールな言葉だけ残ったお婆ちゃん。 めんどうな言葉の束縛から解放された、 その瞳の点滅が眩しい。

深呼吸する言葉・愛想が尽きる日

月だって、人間に嫌気がさしてるじゃない。 一年に3.8センチ、地球から後退りしてるもの。

深呼吸する言葉・身体は慣らされて行く

のらりくらりの日々であろうと、 ひたすら回遊魚の日々であろうと、 身体はどんな理由づけにも従うしかない相棒だ。

深呼吸する言葉・薄れゆく平和

原発ゼロ・パレードが、 野球の優勝パレードに集まる人の数あれば、 まだ間に合うかもしれないのに。

深呼吸する言葉・冬の山

積もった疲れを振るい落としたかった昨日。 何事も無かったかのように覆いかぶさる今日。 わたしは、わたしに雪崩れる、冬の山。

深呼吸する言葉・ジッパーが壊れるまで

群青の、地平線のジッパーを開ければ、朝陽が飛び出す。 それに押されて、私は「おはよう」を毎日繰り返し、生きる。

深呼吸する言葉・氾濫するスピード

地球は人間の欲について行けない。 そんなに早く廻れない、蘇生できない。

深呼吸する言葉・希釈されてしまった愛

70億もの心はどこからやって来たのだろう。 細胞分裂みたいに、魂も分裂するのかな。 それでもって、愛も薄まってしまうのかな。 だって、そんな人でいっぱいの出来事ばかり。

深呼吸する言葉・輝く海原の回想

波の音、さめざめと。 詰っていた、いつかの孤独さえ戯れか。 もう逢えない海原の愛の、抜け殻の貝。